心理学の世界は奥深い。保育業務に役立つ知識もたくさん!
今回は「回顧バイアス」についてです。
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「前の園では……」
と言ってくる、中途採用の職員。
皆さんにも一度や二度は、出会った経験があるのではないでしょうか。
いや、もしかしたら、自分も思わず口にしてしまったことがあるかも?しれませんね。
4月。小規模保育園で働くA先生。
今年も新入園児の対応に大忙し。
結婚などで退職が相次いだため、今年は他の園から転職してきた、中途採用の保育士B先生と担任を組むことになりました。
5つ年上のベテランで、大規模な認可保育園でも経験が長いということもあり、B先生はとても頼りになる存在。良かった、今年はいろいろ学ばせてもらいながら保育を楽しもう、と年度の初めにはA先生も張り切っていました。
「大規模園では子ども一人ひとりとじっくり向き合うことができなかったので、アットホームな小規模保育園に惹かれて思い切って転職したんです」
と、最初は遠慮しがちに言っていたB先生ですが、
日が経つごとに、だんだん鋭い意見を言うようになってきました。
何かにつけ「前の園では、こうでしたよ。そのやり方では、クラスがまとまらないと思う」
というのです。
A先生は「前の園では…」というセリフを聞くたびに、
「またか…」と心の中でうんざり。
「前の園ではそうだったかもしれませんが、うちの園では、これでうまくやってきたんです」
と言ってみたこともありますが、頑固なB先生は譲りません。
そんなことが続くうち、いつも笑顔で元気だったA先生は、
「B先生と組むの、嫌だな。クラスを変えて欲しい。園長先生に相談したいな」
と落ち込むようになってしまいました。
あんなに楽しかった保育が、すっかり苦痛になってしまったのです。
新年度から3ヶ月もたたないうちに、A先生は転職も考えるようになり、園長先生に思い切って相談することにしました。
「B先生と組むのが嫌で、辞めることを考えています」
驚いた園長先生は、A先生の想いを受け止め「気づかなくてごめんね。私の前ではあまりそういう言動をしないから…私の方からB先生に話してみるね」
園長先生はB先生に「前の園では、という考えもわかるけれど、この園にはこの園のルールや流れがある。だからまずは、その考えは横に置いて、A先生と一緒に考えながら保育を進めてもらえませんか」と言いましたが、
B先生も、A先生への不満を、ここぞとばかりに園長先生にぶつけてきました。
「ここは小規模だから」「前の園では監査などで、こんなことや、あんなことを指摘された。この園ではそれすらできていない」…とまくし立てる始末。
園長先生は呆れて、
「このままではA先生がつぶれてしまう」と考え、いったんクラス配置を考え直すことにしました。
人は、想い出や過去を美化する習性があります。これを「回顧バイパス」「過去美化バイアス」「バラ色の回顧」などといいます。過去の失敗や、思い出したくないことは取り除きたいという心理から記憶を美化し、歪めて記憶するのです。
昭和世代の上司が「昔はよかった」と武勇伝を語ったりするのも、同じような事例です。
そのセリフを聞くと、聞かされた人は、「またか…」とうんざりしてしまうことも多いものです。言っている本人は悪びれず、自分が正しいと思い込んでいるから、たちが悪いのですね。
今回のようなケースでは、聞く耳を持たないB先生の頑なな性格にも問題がありそうです。
優しい人ほど追い詰められてしまいますので、A先生のように、あまりため込まないうちに、同僚や先輩、上司に相談しましょう。そしてクラス会議や職員会議などの場で、「『子どものために何が最善か』を一緒に考えていきましょうよ」と、平和的解決にもっていくことができたらベストですね。
難しいとは思いますが、とにかく、一人で抱え込まないことがポイントです。
そして、ご自身も、無意識にそういうセリフを口にしていないか、自分の言動を振り返ってみてください。
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このコラムでは、皆さんからのお悩みを広く募集しています。
子どもたちのために働く、同じ仲間の立場から、
保育の仕事を楽しく続けるためのヒントについて、ご一緒に考えていきたいと思います♪
※医療的な内容については、専門家にご相談くださいね。
(文:鈴木聖子)