前回は、不適切な保育の場面から、「私の行動」について考えてみました。
今回は実際に私が体験したお話を紹介します。
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ある認可保育園の1歳児クラスの担任だったとき、同僚や先輩が子どもに辛くあたっている場面を日々目にして私は自分の心が病んでいきました。
個人情報に抵触する関係があるので、具体的には紹介できないのですが、話の内容をまとめるとこのようなことです。
ある男の子は、いつもにこにこ笑って、他の子どもにちょっかいを出したり、「お散歩に行くよ」と言ってもいつまでも遊んでいたり、とても手のかかる子どもでした。
(この年月齢なら当たり前のことばかり。ごく普通の、ちょっとやんちゃな男の子です)
Kくんといいます。第一子で、お母さんもお父さんも、とっても愛情を注いで育てているのがわかります。持ち物や洋服も、いつもきちんとしていて清潔。忘れ物もほとんどありません。
少し心配症なお母さんではありました。
保育士たちは子どもの前でも平気で、K君の行動だけでなく親のことや、表情のことを「いじって」いました。
「K君、ママもパパも大好きなんだって~。だったらおうちで育ててほしいよね」
「ほんとK君が来るだけで朝の保育が大変。もっと遅く登園すればいいのに」
「熱が出た!これで返せる~(まるで物のように)」
「なんなの、その笑顔。自分が悪いことしているのにヘラヘラして」
「寝ないならあっち行ってて。迷惑だから」
などなど日に日にエスカレートしていきました。
1歳6か月児、まだ言葉をあまり話さないとはいえ、子どもって、大人が話している内容を分かっているのです。
時々、とても悲しそうに笑っているK君の表情を目にすることがありました。しかし私は、自分が一番後輩であることや、同僚にいじめられるのではないかという不安から、心の中で「ごめんね」とつぶやきながら、どうすることもできなかったのです。
誰に相談することもできず、毎日そんな自分に自己嫌悪の気持ちを抱えるばかりでした。そのうちに、毎日、保育中にめまいがする症状が表れました。
心身の状態がおかしい、そう思ったときには、適応障害のような状況に追い込まれてしまったのです。そんなとき、その心情を吐露する機会がやってきました。
その保育園には、臨床発達心理士の先生が毎月巡回しており、保育士も順番で相談することができたのです。私は思い切ってクラスのこの状況を、その心理士さんに打ち明け、「子どもに申し訳ない。この保育園でやっていく自信がない」と言いました。
するとその先生は、親身になって私の話を聞いてくださりこう言いました。
「その状況は改善すべきことだから、園長や主任にもお話したほうがいいね。その前に、あなたができることを少しずつでもやってごらん」
それは、『せめて私だけはこの子の心の拠り所になろう』っていうことだけでもいいと思うのね。K君がなじられている、いじられている場面があったら、その子の傍にそっと寄り添って
「K君はこれが好きなんだね!一緒に遊ぼうね」
「K君のにこにこしているのを見ると、先生元気がでるよ!」
って言ってあげて。それだけで、K君の安全基地になれる。
そしてあなたも、自分の保育は「子どもの最善の利益を何よりも大切にしています」って自信が持てると思うよ。あなたは間違っていないよ」私はこの言葉に心底救われたのです。
そしてこのことがきっかけとなって、私は日々の保育の中で、少しずつ自分の行動や心の持ちようを変えていきました。このことがやがて、クラスの保育を見直すきっかけにもつながっていったのです。
(次回につづく)
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このコラムでは、皆さんからのお悩みを広く募集しています。
子どもたちのために働く、同じ仲間の立場から、保育の仕事を楽しく続けるためのヒントについて、ご一緒に考えていきたいと思います♪
次回は「具体的に保育の中で、いま、私ができること」について具体的に考えてみたいと思います。
※医療的な内容については、専門家にご相談くださいね。
(文:鈴木聖子)